セリ・ホウルブルック博士は、いわゆる「普通」の中に「魔法」を見出す人です。
そして今、彼女は、神秘的なものへの愛を活かし、ギネス世界記録の記録認定に協力してくれています。
ハートフォードシャー大学で歴史と民俗学の講師を務めるホウルブルック博士。私たちが、アドバイスをいただけないか相談したとき、とても感激したと言います。
彼女は、記録の調査や認証を手伝ってくれている多くの専門家コンサルタントの一人で、今回の「世界記録の舞台裏」シリーズの主人公です。
1700年代から続くイギリス諸島の儀式文化やフォークロアに特に興味を持つホウルブルックは、伝統文化について豊富な知識を持っています。
ホウルブルックはギネス世界記録ファミリーのニューメンバーで、昨年、2024年版の本のための記録探しを手伝うために仲間入りしました。
「最初に連絡をくれたのはベン・ホリンガム(ギネスワールドレコーズ・シニアエディター)で、彼はメールに『イタズラメールじゃないよ』と書いてくれていたのを覚えています。その一言が無かったら、冗談だと思っていたかもしれません」
「参加するように言われたのはとても興奮しましたし、これまでの調査とは違った考え方でアプローチするのも興味深くはあったのですが、むしろ私は、今まで『これが一番大きい、一番古い、一番新しい 」と断定しないことに慣れていたので、最初は少し怖かったです」
「『どうしたらそんなことが証明できるのか』とずっと考えていました。しかし、ベンが『必ずしも史上最古のものではない、現時点で知られている最古のもの、記録に残っている最古のものか調査してくれれば大丈夫だ』と説明してくれたので、安心しました。それからは、自分のリサーチを遡って、相反するものが無いか調べていきました」
ホウルブルックと協力し、私たちは、2010年にウェールズで暖炉の下から発見された58個の靴と189個の靴の破片は、「家の中で最も多く隠された靴|most concealed shoes found in a house」であること、また「最古のコインツリー|oldest coin tree」は、1863年から人々がコインを押し込んでいたスコットランドの159年のオークの木であることを発見しました。
このような特殊な習慣の背景には、どのような物語が隠れているのでしょうか。
煙突、床下、ドアや窓の周り、屋根の上など、世界中の建物の中で隠された靴が発見されています。
一説には、超自然的な脅威から住人を守るためのジンクスだったとも言われていますが、ホウルブルックは、人々が家庭に幸運をもたらすために行った可能性が高いと信じています。
コインツリーは、「願いを叶える木」の一種です。長い間、人々は木の切り株や幹にコインを打ち込み、願い事をしたり、お返しに幸運をもたらすお供え物をしたりしてきたと言われています。
ホウルブルックが見つけた記録で、彼女にとって最大の成功となったのは、ウィッシュツリーに打ち込まれたコインの数です。なんと、48,000枚を全て自分で数えたと言います。
イングルトン・コインツリーは、イギリス・ヨークシャーのイングルトン・ウォーターフォールズ・トレイルにあります。
博士課程の一環として、ホウルブルックはコインを丹念に数えることを命じられました。彼女はツリーに正方形の目盛りを敷き、それぞれのマスの写真を撮り、パソコンで数えながらチェックを入れていきました。
「最初は、きっと誰もこのコインツリーに何枚コインがあるかなんて気にしないし、そんなことに自分の人生の貴重な時間を割くなんて、無駄なことだと思っていました。でも、今は人々がこの木に興味を持ってくれたので、何も無駄ではありませんでした」
今日に至るまで、誰かが初めて靴を壁に隠した本当の理由や、初めてコインを木に打ち付けると幸運が訪れると考えた本当の理由は、分かっていません。
しかし、こういう摩訶不思議な文化は、ホウルブルックの関心と想像力を何年も惹きつけてやまないのです。
「歴史にはまだ分からないことがたくさんありますが、必ず全てに説明があるはずです。誰かが煙突に靴を入れたのには理由があると分かっていますが、その理由はなんなのかはまだ分かっていません」
「しかし、全ての疑問が解決されたわけではないということは、希望でもあると思うのです。もし誰かが壁の中に埋まっている古い靴を見つけたとき、その靴に重要な意味があることに気づき、ただ捨ててしまうのではなく、私たちのようなリサーチャーに報告するよう、人々の意識が変わることが、私の望みです」
ホウルブルックは、ギネスワールドレコーズとの仕事のために、こうしたテーマに対する普段の見方を変えなければならなかったことを、「魅力的なプロセス」だったと振り返ります。
「自分の研究をまったく違った角度から見ることができたので、とても楽しかったです」と、ホウルブルックは話してくれました。
ホウルブルックは、古典学の学位、超自然的なものの構成に関する修士号、考古学の博士号を取得しています。
講師であると同時に、民俗学協会の評議員でもあり、3冊の本を出版し、もう1冊を共著、さらに2冊を編集し、数えきれないほどの論文を執筆しています。
また、余暇には小説を書いており、近々出版される書籍『ギネス世界記録』に自分の名前が載るのを見るのが待ち遠しいと話します。
「毎年、クリスマスプレゼントにギネス世界記録の本が送られてきて、とても気に入っていたんです。だから、この本の制作に携われることは、とても光栄です」と語る彼女。
「友人や家族にも話したのですが、今まで出版したどの本よりも、ずっと喜んでくれています。一生大事にするとお思います」と続けます。
「私が何年もかけて研究してきたことが、現象として、そして面白いこととして認められたということじゃないですか。コインツリーはかなり新しいもので、あまり記事にされていなかったので、ギネスワールドレコーズに認定されたことは素晴らしいことです」
また、彼女はこう話します。「このような研究が、教授以外の人にも読まれるようになることも、嬉しいです」
「私はこれまで、学生にしか読まれないような本を書いてきたので、まったく違う種類の読者に届くというのは、本当にワクワクすることです」
神話やおとぎ話に魅了されてきたホウルブルックは、その情熱を仕事にできたことをとても幸運に感じていると話します。
彼女は、多くの民話を生み出してきた公園の近くで育ち、子供の頃、そこに潜む邪悪なボガートが子供を盗むという話を聞かされたのを覚えています。
18世紀のこの物語の起源を調べたことにより、それ以来彼女は神秘的なものにすっかり魅了され続けてきました。
彼女は、教育を通じて、このテーマへの愛情を次の世代に伝え、また、イギリスで唯一の民俗学の修士課程を創設することに貢献したことを誇りに思っています。
ホウルブルックの協力により、「狼男に関する最古の記述|earliest description of a werewolf」や、「箒に乗った魔女の最古の描写|oldest depiction of a witch on a broomstick」も発見されました。
ホウルブルックさん、あなたの魔法を私たちにもわけてくれて、ありがとうございます。