声優として知られる野沢雅子さんが、ギネス世界記録に認定されました。認定された記録は2タイトル。ひとつは、23年218日で「 Longest serving video game voice actor|ビデオゲームの声優として活動した最も長い期間 」という記録タイトル、そして、もうひとつは、「 Longest serving video game voice actor | ビデオゲームのキャラクターを最も長い期間演じた声優 」というものです。

どちらも長さに関わる記録です。声優としては、50年以上ものキャリアを持つ野沢さんは、日本人なら、一度は聞いたことがあるキャラクターの声を担当しています。ゲゲゲの鬼太郎の鬼太郎、銀河鉄道999の鉄郎、ど根性ガエルのひろし、そして、ドラゴンボールの孫悟空です。まさに、日本一の声優、世界一の声優となった彼女を支えた仕事の道のり、その心にあったのは、どんな姿勢だったのでしょうか?彼女に話しを聞きました。

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"失敗したら、またここから行くぞ!と考える"

ーーギネス世界記録に認定されました。今のお気持ちをお聞かせください。

びっくりしました。そんなに年数が経ってるなんて思ってなかったです。1番良い状態で演技ができるように休まず健康でずっと続けてこられたことが嬉しいですね。

ーーキャリアのスタートは、もともと舞台女優さんでしたね。どんなキッカケがあったのでしょうか?

舞台女優をしていた頃、ちょうど洋画の黎明期で、少年役の吹き替えの声優オーディションで合格して自然の流れで声優の道に進むことになったんです。

ーー女性でありながら少年役を演じるという声優のお仕事、最初は難しかったのではないでしょうか?

子どもの頃から、「ママごと」よりも「チャンバラ」が好きでガキ大将っぽかったんです。男の子の中に入っていって斬り合いしたりして、どうしようもないワガママな子だったんですよ。それが原点になっていますから、想像以上にスーッとできてしまったんです。

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ーー野沢さんにとって、声優はどんな仕事なのでしょうか? 「天職」のようなものなのでしょうか?

楽しみながらやっていますね。“天職”と思いたいぐらいなんですよ。ただ、“天職”なんて自分で決めるものじゃなくて……でもみんなはそう言ってくださるんだけど。声優を続けるうえで努力は大嫌いなんですけど、唯一やっているのが人間観察です。

自宅へ帰ってぼーっとしていると、「今日あんな人いたな、おかしかったな」と思い出すんです。いま思えば、自然と人間観察をして、その人のしゃべり方を自分の役者の引き出しの中に入れておいて、それを引っ張り出して役を作っています。

ーー野沢さんは孫悟空をはじめドラゴンボールだけでなく、鬼太郎とか、ど根性ガエルのひろしなど幅広く演じていますが、事前にイメージをふくらませて演じるのですか?

役者としては原作があったら見て、「この役はこうだからこうやっていこう」というふうに作っていくのが普通なんですが、アニメの場合はそうしません。要するに、アニメの場合は全部自分でキャラクターを作れるわけですよ。原作を読めば、性格とか育ちとかわかりますよね。私は最低それだけです。

たとえば、ドラゴンボールの場合、今日どんな悪と戦うのかが事前にわかっちゃうと、声の幅が薄れるんです。私は悟空の気持ちになって一緒に入りたいんですよ。本番で悪がでてきた時に「こいつ、コノヤロー」ってなれば悟空と一緒の気持ちになれるじゃないですか。私はこういう役づくりをしてます。

ーー今回のギネス世界記録は、野沢さんが孫悟空を演じた月日の長さを称えたものになります。われわれからしても悟空は愛されるキャラクターで、本当に国民的なヒーローだと思うんです。野沢さんにとって孫悟空というのは、どのような人物としてとらえているのでしょうか?

悟空は、とってもごく普通に生きている人だと思います。人には迷惑をかけないで自分の好きなように生きてる普通の人。“皆さんが平和にいてほしい”というのが悟空の願いですからね。彼は、普通の人が世の中を守っていくというのが1番いいと思ってるんですよ。

ーー悟空は特別な人間ではないんですね?

はい。悟空が強いのは修行をしているからなんですよ。自分が平和を守るためには、悪い者が来た時に自分が身をもってやっつけなきゃいけない、改心してくれればもっといいという人ですからね。ただ、自分はスーパーマンなんて思ってないし、自分を常に磨いて、悪い者が来た時には自分の身を挺して皆を守る心構えがあるんですね。

ーーいまの世相を考えさせられるお話しですね。ドラゴンボールは日本だけでなく、世界でも人気ですが、世界で受け入れられていることについてどう思いますか? 

やっぱり世界中の人が悟空の生き方に共感しているんだと思います。悟空は正義のために決して迷惑をかけておらず、ごく当たり前のことをやっていて、正義だなんて思ってないんです。それって難しいことですよね。だから世界中の人が悟空のような生き方や悟空のようになりたいって思ってるんだと思います。

ーードラゴンボールのなかで1番好きなキャラクターはやはり悟空ですか?

やっぱり私は1番好きです。性格的に私に1番近いところがあるんですよ。私もどちらかというと正義の味方のほうで、悟空のようにケンカや戦うことはできないですけど、曲がったことは嫌いです。

ーー悟空は自由でニュートラルでワガママだけど決して人に嫌なことはしないですもんね。ある種、天命というか、野沢さんが子どもの頃おてんばでボーイッシュだったことにつながるのかもしれないですね。

よくよく考えると、悟空だけでなく、鉄郎も鬼太郎も正義の味方ですよね。彼らの“正義の味方”や“平和を願う”というところは私自身が持っている気持ちと似ているところがあります。

仕事をする上でのマインドは常にポジティブ

ーードラゴンボールでは、悟空、悟飯、悟天の三役を演じていますが、1つの作品で同時に何役も演じると決まった時は「こんなことできるんだろうか?」という不安みたいなのはありましたか?

恐怖心は全くなかったです。「やったー!」という嬉しさだけでした。自分なりに頑張るぞという気持ちでしたね。

ーーやれるかな?大丈夫かな?という恐れみたいな気持ちはなかったのですか?

私はマイナス思考がゼロなんです。

ーーゼロとはすごいですね。キャリアを長く続けていくうえで、人生なのでプライベートでも色々辛いこともあると思うんですけど、野沢さんがガーンって落ち込んだ時や挫折した時はどういうかたちで上にあがるんですか?

いやな事をプラスに変えていきますね。こんなものはなんともないわ、こんなもの誰だって生きていくうえであるんだからって思ってます。

生きているんだから絶対良い事があるんです。マイナスを考えたらどんどんマイナスな事が寄ってくるじゃないですか。だからそんなもの考えないで、プラスのものをどんどん引き寄せた方がいいですよね。どんどん人生が良くなってくれば、面白いじゃないですか。

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仕事を長く続けるには、自分だけでなく周りとのコミュニケーションも大事

ーーこれだけ長く声優のお仕事を続けるには環境も大事だと思うのですが、仕事をするうえで周りのスタッフとのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

私、スタッフが大切で大好きなんです。役者とスタッフは一体になって1つのものを作ってるわけじゃないですか。役者だけが作っているわけでは決してないですからね。私たち、終わった後は常に食事会するんですよ。

ーー素敵ですね。ドラゴンボールの声の録音の現場はすごく雰囲気が良くて、それは野沢さんの人徳なんでしょうね。職場における空気づくりみたいなものってご自身で意識されていることはありますか?

古い人はスタジオ入ってもリラックスしていると思うんですよ。でも新人の若い人だと先輩と一緒だから硬くなっちゃうじゃないですか。それはやっぱり芝居をするにしても、マイナスですよね。リラックスして良いものを出してほしいわけです。そうしないと、悟空も目立たないわけですよ。悟空が悟空であるには、脇の皆さんが大切なんです。

ーーギネスワールドレコーズは、“多様なことで世界一を目指せる”というスピリットが根底にあります。ギネス世界記録の読者に向けたメッセージをお願いします。

私はギネス世界記録に載るとか世界一を目指すのは希望が持てるとっても良い事だと思います。だけど、挫折感にならないってことが大事。「いやーダメだ」ってなったらおしまいじゃないですか。ともかく、自分の好きなものなんだから最後までずっとそれを追い続けてほしいんです。私はそういう生き方が大好きですね。

ーー野沢さんも舞台女優から声優に至るまで、ずっと女優を続けられてますものね。

そうです。好きなことならずっと続ければいいと思うんですよ。失敗したなんて思わないんですよ。“失敗は成功のもと”っていうことわざが昔からありますよね。たとえば失敗したら、「失敗した。またここからいくぞ!」って前向きにいってほしいです。

ーー最後に、ドラゴンボールで願いが叶うなら、野沢さんは何を叶えたいですか?

元気で健康な状態でずっと役者を続けていきたいというのが私の願いです。

ーーぜひ、いつまでも野沢さんの日本を元気にするヒーローの声、届け続けてください!応援しています!