驚きの深度:リミティングファクター深海探査艇

探検関連の記録と、テクノロジーの驚異的な進化は、密接な関係にある。

その一例が、深海潜水艇(DSV)リミティングファクターという、革新的な探査艇だ。世界中の海の中でも最も深い地点を訪れた最初の潜水艇となった。

探検家で元アメリカ海軍の士官であるヴィクター・ヴェスコヴォは、様々なギネス世界記録を手にしているが、どの記録も最新鋭の深海潜水艇、リミティングファクター号なしでは実現し得なかった。

エベレスト山(地球上で最も高い地点)の頂上に登り、北極と南極を訪れた後、彼の関心は海の深部に向けられた。だが、彼が考えていたプロジェクトには、これまでに作られたことのないような船が必要だった。

海洋工学の専門家であるトリトン・サブマリンズと協力し、リミティングファクター号は開発された。最も深い海の領域への探査を、もっと手軽かつ、可能にするために特別に設計された初の潜水艇だ。

2018年から2019年にかけ、科学者、エンジニア、潜水の専門家からなる大規模なサポートチームに支えられ、リミティングファクター探査艇は、ファイブ・ディープス・エクスペディションに乗り出した。操縦者は、ヴェスコヴォ。これは、世界中の海の中でも、現在知られている最も深い地点を訪れるミッションだった。ヴェスコヴォは、海の中で最も深い地点である、太平洋のチャレンジャー海淵(グアムの南西に位置し、海面下約11 km)を、始めて訪れた。

2020年、彼はチームとともに再びチャレンジャー海淵に戻り、有人の潜航艇による最も深い潜航の記録を樹立。

このミッションには、アメリカの海洋学者である、キャサリン・サリバン博士も同行。元宇宙飛行士であり、国立海洋大気庁(NOAA)の所長でもある彼女は、リミティング・ファクター探査艇に同乗し、チャレンジャー海淵を訪れた最初の女性となり、さらには宇宙空間と地球上最も深い地点の両方へ行った初の人間となった。

現在までにヴェスコヴォは、チャレンジャー海淵へ合計15回潜水しており、この数字自体も記録となっている。

この記録に残る業績は、リミティング・ファクター探査艇に投入された、精密工学と先端技術なしでは実現不可能だった。

前例無き領域への探索を可能にした、この潜水艇。2022年時点で、合計126回の潜水を完了し、世界最深の船の残骸を、1度のみならず2度発見するという重要な役割を果たした。

船は2人乗りで、驚異的な圧力にも耐えるように設計されている。さらに、海面よりも1000倍以上の圧力がかかったとしても、カプセル内の圧力は一気圧で一定に保たれているため、表面に戻る際の減圧を必要としない。

この潜水艇は、特に遠隔操作での長い航海にも耐えられるよう特別に設計され、頑丈なチタン構造は、あらかじめ非現実的とも言えるほどに強力な圧力を想定し、その上でさらにその数字の25%以上の圧力をも耐えられるよう製造されている。

2022年末、リミティング・ファクター(およびその支援船「プレッシャー・ドロップ」)号は、ゲーム会社バルブのオーナーであるゲイブ・ニューウェルが設立した、海洋研究機関Inkfishに所属することになった。

新しい名前である「バクナワ」(フィリピン神話の蛇竜の生物)のもと、この潜水艇は、海洋生物学者でありギネス世界記録のコンサルタントである、アラン・ジェイミソン博士(西オーストラリア大学海洋研究所所属)の指導のもと、深海の冒険を続けていく。

これからも、この船は、この星の未知の領域に光を差す手助けをしながら、海底探査の限界を破り続けていくだろう。