ザ・シンプソンズ: エピソード数で最も長く続くホームコメディアニメーション
スプリングフィールドに住む機能不全な核家族「ザ・シンプソンズ」は、30年以上にわたり、ポピュラー・カルチャーに大きな影響を与えてきた。31シーズン、684エピソードを記録したこのアニメは、アメリカ社会を反映する鏡でもあり、今でも時代を風刺と笑いの視点で描き続けている。
一覧に戻る『ザ・シンプソンズ』は1987年4月19日に産声をあげた。始まりは、アメリカのFOXネットワークの番組『トレイシー・ウルマン・ショー』のコマーシャル前後に放送される60秒間のショートアニメだった。プロデューサーはGracie Filmsのジェームス・L・ブルックス。作家はコミック・アーティストのマット・グレイニングが担当した。グレイニングは当時、コミック・ストリップ『Life Is Hell』で知られていた。
グレイニングは『トレイシー・ウルマン・ショー』の短いコーナーで、新たなキャラクターを作りたいと考えた。そこで、自身の家族をモチーフに、一般的なアメリカン・ファミリーを作り上げた。それがシンプソンズだ。グレイニングによると、スケッチに対してテレビ側の役員が手直しをかけてくるだろうと考え、時間をかけずに描いたそうだが、実際は変更されずそのままアニメ化されてしまったのだ。そのため、初期のシンプソンズはシルエットに波ができるようなクオリティーで、それが作品の奇妙さに貢献したかもしれない。
声優のほとんどは、1987年4月19日に放送された初回のころとほぼ変わらず。現在でも、ダン・カステラネタ（ホーマー役）、ジュリー・カブナー（マージ役）、ナンシー・カートライト（バート役）、イードリー・スミス（リサ役）が担当している。カステラネタとカブナーはもともと『トレイシー・ウルマン・ショー』のレギュラー陣だった。カートライトはリサ役で、スミスはバート役でそれぞれオーディションを受けていたが、スミスの声はいたずら好きのバートらしくないということで、入れ替わったのだとか。
クリエイター陣とキャストの相乗効果が功を奏し、『ザ・シンプソンズ』は高評価を受け、30分番組としてシリーズ化されることとなった。シリーズ初回は1989年12月17日、クリスマス・スペシャルとして「シンプソンズが直火でローストを」の巻を皮切りにスタート。プライムタイム・エミー賞の候補にもなったのだ。
以下が『ザ・シンプソンズ』が獲得してきたトロフィーのリストだ：
● アニメーション部門（1時間以内）：1990, 1991, 1995, 1997, 1998, 2000, 2001, 2003, 2006, 2008, 2019年
● 声優部門： 1992, 1993, 1998, 2001, 2003, 2004, 2006, 2009, 2010, 2014, 2015
● 歌曲部門： 1997, 1998
● アニメーション特別貢献賞：2010, 2013, 2014, 2018
『ザ・シンプソンズ』はこの他にもピープルズ・チョイス・アワードを8回（1991, 2007-09, 2011, 2015-17年）受賞し、ギネス世界記録となっている。また、2020年4月22日時点で少なくとも810人の著名人がアニメ・キャラクターとしてゲスト出演を果たしていて、これも世界記録だ。
ゲスト出演者はジャンルを問わない。音楽プロデューサーのマイケル・コーウェルは、TVショーのMC、エレン・デジェネレス、科学者のスティーヴン・ホーキング、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグなどなど。
『ザ・シンプソンズ』から派生した記録の数々
30年以上続くこのアニメは、多くの人に影響を与えている。ギネス世界記録においても、『ザ・シンプソンズ』にまつわる記録が多く樹立されている。
● 最大の『ザ・シンプソンズ』コレクション（2,580点。記録保持者はオーストラリアのキャメロン・ギブス。）
● Facebookでもっとも「いいね」がついたTVショー（2020年8月時点で6,200万いいね。）
● 「最もダウンロードされた衛星ナビゲーションの音声｜most downloaded sat-nav voice」は、ダン・カステラネタ演じるホーマー・シンプソンが獲得。2009年から2011年にかけて、128,500回ダウンロードされた。
● 「最も長いTVフランチャイズの連続放送｜longest uninterrupted broadcast of a TV franchise」（300時間）。FXXが2016年11月24日から12月6日にかけて『ザ・シンプソンズ』600話を一挙放送した。
● キャリン・シュリーブスとジェレマイア・フランコが「テレビを見続けた最長時間｜longest marathon watching television」を達成。『ザ・シンプソンズ』を第1話から86時間37分見続けた。
● 「1つのアニメシリーズのキャラクターを使ったタトゥーの最多数｜most tattoos of characters from a single animated series」（203キャラクター）は、『ザ・シンプソンズ』の大ファンであるオーストラリアのマイケル・バックスターが認定されている。
"The Duff Book of Records"（ダフ世界記録ブック）
『ザ・シンプソンズ』の作中には「Duff（ダフ）」というビール・ブランドがあり、パブでの議論や喧嘩を収めるためにあらゆる世界一を収集した「ダフ・ブック」という書籍を出版している。現実世界でもこれによく似た本が出版されていることはいうまでもない。作中で紹介された"世界記録"には「ライマメを鼻に突っ込んだ最多数」（183回）や、「パドルボールを同時に打った最多数」（シンプソンズが住むスプリングフィールドの全住民が参加）、「トランポリンを跳んだ最多数」（ホーマー・シンプソンが達成）、「最も肥満な街」（スプリングフィールド）、「あなたが見た最高の本」（トム・クランシー著の『オプ・センター』）、「顔から首まで洗濯ばさみをはさんだ最多数」（116）などがある。ダフ・ビールは、大食い選手権「Duff Ultimate Eating Challenge」も開催している。
台詞の多いキャラクター・ランキング
『ザ・シンプソンズ』の台本がオンラインで公開された。30年間に及ぶ600話以上の台本を分析すると、どのキャラクターに最も台詞が与えられていたかが判明した。以下がそのトップ10だ（シーズン27までのデータが対象）
シンプソン家を描いた男
マシュー・アブラハム・グレイニングはアメリカ、オレゴン州出身。母マーガレット・ウィグムと父ホーマー・フィリップ・グレイニングの間に長男として生まれ、その後妹のリサとマギーが家族に加わった。学生時代、グレイニングは漫画家としての才能を発揮し、大学ではキャンパス雑誌にコミック・スケッチを提供していた。その後、コミック・ストリップ『Life is Hell』がTVプロデューサーのアルバート・L・ブルックスの目に留まり、『ザ・シンプソンズ』のアニメ制作につながった。
1997年には『フューチュラマ』を製作した。シーズン7ではMetacriticレビューで80/100を獲得し、ギネス世界記録「Sci-Fiアニメが獲得した最高評価得点｜highest rated sci-fi animation on TV」に認定されている。さらに2018年には、Netflixオリジナル作品『魔法が解けて』を製作した。2012年2月14日、グレイニングの名前はハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに埋め込まれた。
マット・グレイニングと一問一答
書籍『ギネス世界記録』の50周年を記念して『ザ・シンプソンズ』の共同製作者、マット・グレイニングに話を聞いた。まずは作品が達成したギネス世界記録を祝福した。
グレイニング：ありがとう！本当に予想していなかったよ。賞には興味ないけど、ギネス世界記録の本に載るのは素晴らしいことだ。とるとは思ってもいなかったし、誇りに思える記録になってほっとした。欲しくない記録だってある。ベイクドビーンズに漬かるようなやつじゃなくて良かったよ！
ギネス世界記録：ゲストとして多くのスターが出演しています。なぜセレブリティたちは前向きなのですか？
グレイニング：まずは、ショービジネスで一番簡単な仕事だからだよ！カーラーをつけて裸足できてマイクに吹き込めば終わりさ。大物スターを電話越しで収録したことだってあるよ。でも来てもらった方がいい。ミック・ジャガーがスタジオに来たときは、スタッフはみんな喜んでいたよ。呼ぶ理由はまさにそれーー私たちが楽しむためだよ！マイケル・ジャクソンは、「自分をマイケル・ジャクソンだと思い込んでいる体重130キロの白人」役を演じてもらったし、エリザベス・テイラーはマギーの声をやったことだってある。ビートルズからはポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソン、リンゴ・スターも出演している。でも作家陣が一番嬉しかったのは、アダム・ウエストの出演だ。彼はオリジナルのTV版バットマンなんだ。
ギネス世界記録：TV業界で働きたいと思っている子どもたちにアドバイスはありますか？
グレイニング：まずはTVばっかり見ないで！業界はいつも腹ペコなモンスターみたいなもので、常にコンテンツを与えなければならない。だから自分の頭に文化、歴史、科学、政治をたっぷり詰め込むんだ。そうすれば、TVでもうまくやっていけるよ。
ギネス世界記録：一番好きな回はありますか？
グレイニング：そうですね。初期のもの……特にリサが出る回が好きだよ。リサが初めてサックスのメンター、ブリーディング・ガムス・マーフィーに会う回では、キャラクターがあくどく描かれているのに、心が動かされる作品ができたことに驚いたものだよ。
ギネス世界記録：バートと仲間たちは1987年から私たちのTV画面に映し出され続けてきました。今後20年も、ポップカルチャーの景色を作り続けていくと思いますか？
グレイニング：そうあってほしいですね！終わりは見えていません。新しいストーリーを考えるのは楽にはなりませんが、我々自身で驚きを作り続けています。サプライズを生み続けること……それが私たちのゴールです。何十年もやっているとそれは難しくなります。みんな各々の"神回"を持っていて、それと戦わなければいけないのですから。でも、諦めませんよ！