シモーネ・バイルズ: 世界体操競技選手権最多通算金メダル

シモーネ・バイルズ選手は、16歳から体操競技の頂点に立ち続けていた。しかし、優勝やオリンピック・メダルだけでとどまるアスリートではない。何ができるかできないかの固定概念を覆すことで、体操競技全体を変革させたのだ。

一覧に戻る

Words: Tom Beckerlegge

シモーネ・バイルズは1997年3月14日、アメリカのオハイオ州、コロンバスで生まれた。祖父母と暮らすために6歳でテキサス州、ヒューストンに引っ越してから、体操をはじめた。ジュニアの競技会で瞬く間に上位にのぼったことを機に、バイルズと家族は、スポーツに専念するためにホームスクーリングの道を選んだ。 

この選択は功を奏した。まだ16歳だった2013年、バイルズは世界体操競技選手権で4つのメダルを獲得。その1つは、キャリア初となる個人総合タイトルだった。その後2014年、2015年と優勝の座を守り、バイルズは世界一の女性体操競技選手の地位を獲得した。

2016年リオデジャネイロオリンピックで個人総合の金メダルを見せるバイルズ。隣は銀メダリストのアレクサンドラ・レイズマンと銅メダリストのアリーヤ・ムスタフィナ。
バイルズは最も高得点差で個人総合優勝した女性選手となった。

2016年に開催されたリオデジャネイロオリンピックで、バイルズは圧倒的な強さを見せつけた。4つの金メダルと1つの銅メダルを獲得するのみならず、2位と2,100ポイントの差をつけて個人総合を優勝したのだ。わずかな点差で勝敗が決まるのもまれではないこの競技において、このような大差をつけるのは驚異的なことであった。

バイルズはこの世界を超えているわ。あれは異星人による体操競技。そして、人間の域を超えた体操競技なのよ。 - スベトラーナ・ボギンスカヤ元選手(1989年世界体操競技選手権個人総合優勝)

成功の鍵

バイルズの秘けつは何なのか。身長は142 cmと小柄だが、その体に想像を超える力を秘めている。跳馬や床運動では、他の選手より高く跳ぶことができ、ツイストや回転をするための時間をより多く確保できている。よって着地の成功率も高くなる。

体操競技は演技価値点と実施点で採点され、これらの数値が高ければ、獲得可能なスコアが増える。バイルズはツイストやタンブルを増やすなどして難易度の高いスキルを組み合わせることで、ライバルとの差をつけている。

難易度の高い構成を成功させるためには、スキルや優雅さのみならず、恐れない精神力が必要だ。プロの体操競技の世界では、1つのミスが重大なケガにつながることはまれではない。着地前に地面を目視できない技をすればなおさらだ。

2016年のオリンピック後、バイルズは1年間の休みをとった。復帰すると、体操競技のレベルをさらに上げようという意思を見せた。2019年にアメリカ国内で開催された体操競技選手権では2つの新たな高難易度スキルを披露した。

トリプルダブル

Simone first triple double gif

2019年の大会で、バイルズの名前がつくスキルが4つに増えた。「ザ・バイルズ」と称された床運動のスキルでは、ハーフツイストが加わったダブルレイアウトで、最後は地面が見えないブラインド着地となる。このスキルでバイルズは、自身の身長のおよそ2倍の高さまで跳ぶことができる。跳馬においても、他の選手が着地に成功したことのないスキルを持っている。

Simone executed the first double double dismount on beam in competition at the United States National Gymnastics Championships in Kansas City, Missouri, USA, on 9 Aug 2019...
バイルズによる初めてのトリプルダブル

アメリカでの選手権の直後、バイルズはドイツ開催の世界体操競技選手権に出場した。そのたった1つの選手権で、なんと5つの金メダルを獲得することに成功したのだ。この偉業は、ラリサ・ラチニナ(1958年)とヴラスタ・ジェカノヴァ(1938年)しか達成したことがない。さらに、ギネス世界記録「世界体操競技選手権最多メダル数|most World Artistic Gymnastics Championships medals」を25個に更新。男性の体操競技選手、ビタリー・シェルボの記録を上回った。


バイルズ選手によるメダル数(2020年9月1日現在)

大会
オリンピック401
世界選手権1933


What's next?

バイルズの影響力は体操競技やスポーツ界のみならず、あらゆる人のロールモデルになっている。ソーシャルメディアでの影響力もあり、社会の不平等に反対の声をあげている。また、体操競技においても進化を続けている。2020年2月にはユルチェンコ跳び2回半ひねりを行う動画を公開した。この技は頭部や首の損傷につながる恐れのある危険なものとされていて、女性アスリートが大会で試みたことはいまだない。その危険な技を、オリンピックで披露する可能性すらほのめかした。

それから数日後、バイルズはローレウス世界スポーツ賞において最優秀女子選手賞を受賞した。これで3度目となる受賞で、あと1回受賞されれば、テニス界のレジェンド、セリーナ・ウィリアムズと並ぶ。

Simone won her third Laureus World Sports Award in early 2020

多くのオリンピック選手同様、バイルズは東京オリンピックの延期を受け、トレーニングの再調整などを強いられた。バイルズは今回が最後のオリンピック出場であることを明言している。大会後、ラリサ・ラチニナによる9つの金メダルの記録に近づくのかが注目される。しかしその結果に関係なく、彼女の名前は体操競技の歴史に深く刻まれることは間違いない。

「私はこれが得意だ」ということ、決して思いとどまってはいけないことを、若い女性たちに教えることが大事なのです。 - シモーネ・バイルズ

シモーネ・バイルズの偉業は、書籍『ギネス世界記録2021』に掲載されている。

illustrated-simone-biles