登山家・田部井淳子さん

登山家・田部井淳子さんと言えば、女性ではじめてギネス世界記録を授与された人物として認定され、その後も、地球を舞台に様々な山に登頂し続けたニッポンの偉人です。ギネス世界記録60周年記念授与を機に、彼女のこれまでの歩みについて聞きました。

ーー田部井さんが、登山をはじめたのは、どんなキッカケだったのでしょうか? 
「はじめて登山をしたのは、小学校4年生のとき、栃木県那須山茶臼岳という1900 m級の山でした。それまで生まれ故郷の福島では、山と言えば、花が咲いていて、段々畑があってというイメージでしたので、本当に驚きました。自分の知らない、新しい景色があるんだ、とそう思ったんです。 

ーーその経験から世界へと目を向けるようになったのは、どうしてなのでしょうか?
じゃあ、他はどうなんだろう? その好奇心が私を支えてきたように思うのです。実は、私は、”挑戦”や”征服”という言葉は好きじゃないのです。それよりも、心から湧き上がる好奇心で、山を登り続けています。一見、不可能だと思えることが、調べたり努力したりする過程で、徐々に可能になっていく、その過程がとても好きなんです。だから、私の場合、好奇心を追いかけた結果、ギネス世界記録みたいな有名なものとしても認定され、世界初と言われるようになった、 というだけなのです。

ーー目標を達成する過程で、ご本人のモチベーションとしているのは、どんなことなのでしょうか?
私の場合は、賞状がもらいたいわけでもないし、賞賛されたいわけでもない。本当は、ただの私の趣味なんです(笑)。自分の心を満足させるためだけにやってきたんです。何が起きても慌てず騒がず穏やかな心で力まず臨む。そして、生きていくなかには、山以外にも楽しいことは沢山あります。365日24時間ずっと山のことだけを考えているだけじゃなくて、生活にある全てのこと、その過程を楽しむ。目標達成というのは、その結果なんですね。

ーーこれからももまだまだ登山を続けられると思いますが、今後、どんな人生を送っていきたいとお考えですか?
ひとりひとりに与えられた人生の時間というのは、限りがあります。自分が残せるものといったら、お金や物ではなくて、毎日毎日の積み重ね、つまり自 分の歴史が自分に残せるものなんだと思います。私は、本当に自分がやりたいと思っているものがあるから、それを悔いなくやり遂げたい。ああ、生まれてきてよかった。そんな風に毎日という歴史を積み重ねていきたいんです。