Martin Tye lifting 505 kg in his successful attempt for the heaviest seated deadlift

イギリス在住のマーティン・タイさんが、ギネス世界記録「シーテッド・デッドリフトの最高重量|heaviest seated deadlift」に認定されました。彼が持ち上げたウエイトの重さは、なんと505 kgもありました!

見事世界一となったマーティンさん……しかしそこまでの道のりは険しいものでした。

マーティンさんは21歳の時にイギリス陸軍に入り、イラク、レバノン、キプロスを回りました。そして2009年、彼はアフガニスタンに向かいました。

「そこは交戦地帯でした。選挙が行われる前日に到着したので、何かが起きる事は想定していました。実際前日には正門で自爆テロもありました。」

陸軍時代のマーティンさん(左)

「その後コンボイを作り、通常のパトロールをしました。私は、乗っていた車両の指揮官でした。そしてある角を曲がった時、爆弾を積んだ車が後ろから突っ込んできて、爆発しました。」

この事件で、マーティンさんは麻痺状態になり、膝下の感覚を失いました。左膝だけでも20回の手術を行っており、現在では両膝が関節炎になってしまいました。傷を負ったのは身体だけではなく、医師にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されました。

しかしその後、スポーツをはじめ、ストロングマンの大会に出るようになると、マーティンさんに変化が。

「それまでは何に没頭する事もなく、自宅でボーっとする毎日でしたが、障害者のストロングマンに出会って、自信を取り戻すようになりました。」

パートナーのベッキー・イングラムさんも変化を感じたと言います。「出会ったころは内向的で自信も全くありませんでした。自信を上げてもらえるように、軍関係者に会う機会を増やしました。大勢の人に会うのも苦手だったので、陸軍対海軍のラグビーの試合に連れて行ったりもしました。」

Martin has been competing in strongman events for a little over three years

マーティンさんをInvictus Games(怪我や病気を患った軍人を対象とした多種目スポーツ大会)に導いたのもベッキーさんでした。大会をテレビで見ていた時、マーティンさんが「俺もできる」と言ったのを聞き、大会に参加させてみようと考えたそうです。

「彼もやってみる事に興味はあったそうですが、自分で応募する事はないと言ったので、私が代わりに応募しました。でもその事を面と向かって伝えるのは怖かったので、電話で伝えました。マーティンは私がした事を受け入れてくれました。」

そしてマーティンさんは2017年、2018年と2度大会に参加。パワーリフトやインドア・ローイング、車いすラグビー、車いすバスケットボールなどの競技で、合計11個のメダルを獲得しました。

Martin has picked up Invictus Games medals

そんなマーティンさんが次に目をつけたのはギネス世界記録。身体を限界まで追い込んで、どれだけの事ができるかを試したいと思うようになったそうです。

「世界中の人に、障害者ができる事を見せつけたいんです。普通の人たちとは取り組み方が違うけど、力がないという事ではありません。」

Martin Tye heaviest seated deadlift preparation

彼が選んだ種目はシーテッド・デッドリフト。一般的なデッドリフトとは技術が違い、持ち上げた重さで背中にかなりの負担がかかります。

エディー・ホールさんによるデッドリフト世界記録挑戦

そのために必要な要素の1つは筋肉量ですが、そのために高カロリーの食生活を続けています。

「1日に8,000カロリー摂取しています。いっぱい食べられて良いと思われますが、これはかなりの量で、無理やり食べようとしないと入らない事もあるほどです。ファミリーサイズのチーズケーキを半分食べたりしますし、朝食はソーセージや卵などがのったフル・ブレックファストとオートミール、プロテインシェイクと生クリームを食べたりします。」

Martin Tye heaviest seated deadlift preparations

挑戦日当日は多くの人が訪れ、世界一の瞬間を見守りました。記録挑戦はわずか数秒で完了。無事審査を終え、ギネス世界記録に認定されました。

「簡単に見えたと言われましたが、そんな事はありませんでした。身体は痛いし感情的にも疲れ果てました。でも良い結果が出て嬉しいです。」

マーティンさんはリフティングなどをする際、それを頭の中でイメージするそう。「怒りをあらわにしてリフティングをする人もいますが、私はイメトレをしながら"軽い、大丈夫、できる"と言い聞かせます。それでも緊張は解けないですが、今回の挑戦では、バーを持った瞬間"これは上がるな"と感じました。観客の存在もテンションを上げてくれます、今回みたいにこれだけの人数がいればなおさらです。」

Martin Tye heaviest seated deadlift attempt

障害者となってからアスリートとなったマーティンさん。始めた当初は、他の人たちにインスピレーションを与えるような存在になるつもりはなかったそうです。

「見本になるような人間ではないと思っていますが、もし私を見てスポーツを始めたのであれば、それが彼らにとって心身ともに良いという事は分かっています。はじめの一歩を踏むのが一番難しいところ。そこからは良くなるだけです。大会にはじめて出るのは大変でしたが、終わった時はすごい良い気持ちになりました……優勝もしていないのにですよ。みんなと一緒に参加して、大会の一員としていられる事の嬉しさがあったからなんです。」

記録達成後のマーティンさんとパートナーのベッキーさん