日本が世界に誇るベアリングメーカーのミネベアミツミ、過去に認定されていた「世界最小の量産可能なスチール製ボールベアリング」に続き、今回新たに「世界最小のハンドスピナー」「一本の指の上でハンドスピナーを回す最長時間」でのギネス世界記録を認定されました。そのサイズは、 なんと、5.09 mm、回転時間は24分46.34秒です。最小、最長回転ハンドスピナープロジェクトにおいて、 実質的なプロジェクトメンバーのトップであったという野根茂さん(取締役専務執行役員、営業部門担当兼本部長)に記録挑戦の裏側について聞きました。

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ギネスワールドレコーズジャパン(以下G): 2015年7月に認定された「最小の量産可能なスチール製ボールベアリング|Smallest commercially available steel ball bearing」に続いて、今回約2年半ぶり、2017年11月14日に、新たに「最小のハンドスピナー|Smallest fidget spinner」、2017年12月11日に「一本の指の上でハンドスピナーを回す最長時間Longest duration spinning a fidget spinner on one finger」でのギネス世界記録を認定されました。記録に挑戦しようと思ったきっかけ・いきさつを教えていただけますか?

野根さん: 日本でもハンドスピナーがメジャーな存在になってきました。動力の軸となるのが、わが社の主力商品でもあるベアリングです。社長から「前回せっかく“世界一小さいベアリング(外径1.5 mm)”を作ったのだから、これを生かしたハンドスピナーでギネス世界記録を取ったら面白いのでは」という話からはじまりました。また、他を圧倒する回転時間を実現するハンドスピナーをつくって、当社のベアリングの精度を証明したいという想いもありました。晴れて2・3回目のギネス世界記録をとったことは、ベアリングに携わっている営業、技術、製造にとって励みになっています。

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G:工業製品メーカーは一般的に、無駄をなくして受注が来たものを合理的に最速でゴールまで、いかに多く作るかを最優先しますね。しかし、ミネベアではベアリングのシェアは既に世界的トップであるのに、そこで満足せずに、さらにフィンガースピナーという時代の流行にあわせた、生産ラインとしては、つくる必要性がない遊び心あるプロダクトを作ったというのは面白いですよね。

野根さん:工業製品ってクリエイティブなモノには挑戦しにくいんです。お客さんのスペックによって作る方が多いですから。でも社長が「ユニークなものをつくろう」ってずっと言っていたんです。その発言が極めて大きい意味、影響力をもったと思います。

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G: 工業製品メーカーは一般的に、無駄をなくして受注が来たものを合理的に最速でゴールまで、いかに多く作るかを最優先しますね。しかし、ミネベアではベアリングのシェアは既に世界的トップであるのに、そこで満足せずに、さらにハンドスピナーという時代の流行にあわせた、生産ラインとしては、つくる必要性がない遊び心あるプロダクトを作ったというのは面白いですよね

野根さん: 工業製品ってクリエイティブなモノには挑戦しにくいんです。お客さんのスペックによって作る方が多いですから。でも社長が「他社とは違う、我々にしかできないユニークなものをつくろう」ってずっと言っていたんです。その発言が極めて大きい意味、影響力をもったと思います。

G: ベアリング自体は一般の人たちにとっては縁の下の力持ちとして、生活の色々なところで活躍していますよね。それをあえて「世界最小のベアリング」「世界最長の回転時間を実現するベアリング」というカタチに落とし込んだ意味は、どんなものだったのでしょうか?

野根さん: 今、言われたように、ベアリングはモーターやカメラに入っています。が、裏方的な役割で、普段は皆様の目に触れる機会がほとんどありません。でも、その技術力は相当高い。ならば、それが外により良いカタチで見えるように、ハンドスピナーというプロダクトに仕上げたらどうか、そうすればベアリングが強調できるので、当社の超精密機械加工技術をお披露目できるかなと考えたわけです。

G:近年流行っているハンドスピナーは(2017年12月時点)、子どもたちも巻き込んで、非常に人気があります。ベアリングという、いわばB2Bのビジネスモデルでプロダクトを製造していくメーカーが、ここに目を付ける、というのは、本当にユニークな発想だと思います。

野根さん:はい。でも、手に取るとすぐにそのモノの質がわかるわけです。われわれの特徴を生かすことで、「小さいモノ、すごく良く回るモノ、すごくスムーズに回るモノ」を完成させてみたいと思ったわけですよ。

G:今回の、この最小のハンドスピナーづくりには、どれくらいの人数や期間を投じて完成されたのでしょうか?

野根さん:広報とベアリングの営業技術、また制作に協力いただいた由紀精密様と8名程度で集まって、2ヵ月間集中する形で完成させることができました。

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G:世界最小のハンドスピナーを作る際、苦労した点はありますか?

野根さん: 最初は苦労したんです。なかなか回らなかったんですよね。でも、営業技術のメンバーと「どうしたら回るんだろう」ということをよく話し合って、素材やデザインを検討していくなかで、段々と回るようになっていきました。

G:当初はハンドスピナーを回すのが難しかったのですね。

野根さん:ギネス世界記録に課せられた「最低でも2秒回す」というガイドラインを、「もっと上回らないとダメだ」って言っていましたね。それで創意工夫をして、改良を重ねた結果、グルグル回るようになりました。

G:どこを改良して、回転時間が伸びたのですか?

野根さん:持ち手とベアリングのクリアランスです。要するに、ベアリングというのはシャフトを通すところが、きつくてもダメだし、ゆるくてもダメです。嵌合(はめ合わせ)は決まっているので、地道に調整していきました。組み立てるところに技術があり、精密さで回り方も変わってくるので、工夫に工夫を重ねましたね。

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G:社内を活性化させる1つのプロジェクトとして、ギネス世界記録に挑戦されましたが、挑戦によって組織にどういう変化が起きましたか。

野根さん: ベアリングを世の中に知ってもらえるPRになったと思います。社長がよく「ベアリングはうちのプライドだ」って言っているので、今回のギネス世界記録認定によってそうした風土が社内でも確立するんじゃないかな。 「こういうプロダクトがある」というのが我々の1つのプライドにはなってきています。わが社では色んな商品を販売していますが、今後は「ベアリングを売りたい」「ベアリングの技術に携わりたい」という人が増えれば嬉しいですね。

G:ギネス世界記録では、「世界一を目指す!」というチャレンジ精神を称えています。ミネベアミツミ社のようなチャレンジ精神が企業で育まれるのは、素晴らしいことだと思うのですが、その士気はどんな土壌から生まれているのだと思いますか?

野根さん: 「出る杭は打たれる」みたいな文化が日本の企業にはありますが、社長は「出る杭になれ」ってよく言うのです。むしろ、「杭になって出てこい」と。今回は、「楽しんでやろう」というのをキーワードにして、直接仕事と関係ないことも、皆で楽しんでやりました。

G:素晴らしい社長ですね。「杭になって出てこい」ですか。では、最後に「世界一になったベアリング」から今後、どんな未来を想像されているのでしょうか?

野根さん:ベアリングの本当の機能というのは「高回転」なので、今回の世界最小のハンドスピナーを通過点として、「最も究極な回転」、要するに、「最も長く回るハンドスピナー」を目指しました。

最長スピナーについては、当社のベアリングを使って人工衛星用の部品を製造いただいている三菱プレシジョン様に設計と組み立てを依頼し、部品を弊社で製造しました。宇宙衛星に使用いただいている技術を盛り込むことで、これまでにないなめらかさと圧倒的な回転時間を実現することができました。

まさに、ミネベアミツミの機械加工品事業の集大成といえる製品の1つとなっています。

G: ギネス世界記録に挑戦する、世界を目指すというところで、世の若い人たち、未来のある人達に向けてメッセージをお聞かせいただければと思います。

野根さん: われわれみたいな部品メーカーでもギネス世界記録を3つも取れるということが社内でも証明できました。これは本当に喜ばしいことです。若い技術者、営業マン、営業技術には、われわれの目指す超精密機械加工品というのをプライドに持って会社生活を送っていただきたいと思っています。同時に、世間の若い人たちには、今回、われわれが指針としたように、「杭になって出る」とか「楽しんでやる」ということを意識しながらやると、世界一も夢ではなくなるのではないでしょうか。

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以上、ミネベアミツミ社の野根さんにお話をうかがいました。ほんの少しの誤差も許されない超精密機械加工製品をつくるメーカーならではの硬派なコトバの数々を聞けました。最小、最長のハンドスピナーは、やはりダテではないですね。皆さんも、これを機会にぜひ「ベアリング」というものに着目してみてください。生活のあちらことで使われているものだということがわかると思います。[編集部]

Photos/ Noriko Yamamoto

minebeamitsumi team