書籍『 ギネス世界記録 2017 』掲載!

スキージャンプで生ける伝説となった男、葛西紀明|ギネス世界記録

ギネスワールドレコーズの方から認定証を授与された感想をお聞かせください。


もう、驚いています。3つもらえるだけでもビックリしてすごいことだなと思っていましたが、まさか5個も……と思っています。


5つのギネス世界記録の中には、最多出記録と最年長の記録の両方がありますけれど、メダルとはまた違った気持ちになります?


そうですね。名誉ある賞だと小さい頃からずっと思っていましたし、スキージャンプで取れると思いませんでした。ギネス世界記録は縄跳びだとか、そういうものでしか取れないと思っていました。まさか、自分が愛してやまないスキージャンプで、こんなに取れるとは思わなかったので本当に感激ですね。


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ギネスワールドレコーズの本社は英国で、欧州では葛西選手と同じく人気があります。多くの人たちに支持されていることについてどう思われますか?


小さい頃から憧れたオリンピックに7大会連続で出場し、メダルも取れました。苦しいことも悲しいこともたくさんありましたが、あきらめずに自分が頑張ってきたことが、やっと報われた。『ギネス世界記録』の本に載ろうと思って、やってきたわけじゃなく、自分の努力が実って、名誉ある賞をもらえたので、自分を褒めたいと思います。日本の方たちにも勇気づけることができたのかな、と思っています。


9歳からジャンプを始められて、ここまで続けてこられたのは何が理由なのでしょうか?


何でしょうかね……。負けたくない気持ちだと思います。負けるからこそ勝ちたいって気持ちになります。小さい頃からたくさんのライバルもいて、モチベーションもありました。妹の病気、母親の死もありましたが、たくさんの方に支えてもらいました。会社もそうですし、知人、ファンの方の支えがあって、またやる気が出るというモチベーションになります。本当に最高の人生を歩んでこられたなって、つくづく感じています。


9歳で始めた頃に戻られると、今現在をイメージされたりしていました?


なんとなくですが、自分はすごいものを持っている、特別なものをもっているっていうことを小さい頃から感じていました。悲しいこともあって、「そういう人生なんだなあ」という忍耐力もついて、我慢強さも全部ひっくるめて、最高のジャンプ人生だと思っています。


「最高のジャンプ人生」には、想像を絶する苦労や努力があると思います。それらを乗り越えるのは、どこに自分の気持ちを置いていたからですか?


まず、自分の能力をずっと信じてきたこと。「天才」と言われましたが、天才というのは練習しなくても飛べるみたいな、そんな感じだと思います。そう言われながらも、隠れてしっかりトレーニングをしました。しっかり感謝の気持ちを持ちました。天狗にならずに、「なんで自分はこんなに性格が良いのだろう」という感じで思っちゃっています。そういうのも全部入ったものなのじゃないかなと。


ギネス世界記録保持者のインタビュー特集

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オリンピックの個人でメダル(2014年ソチ五輪ラージヒル銀)獲得まで時間がかかりましたが。最年長記録(五輪は41254日で日本の冬季五輪最年長メダリスト)などを更新し続ける秘訣はありますか?


若い頃からトレーニングをしても、全然疲れないっていうのがあって。いまだにトレーニングでの疲れは全然感じません。後輩といろいろなスポーツをしても、彼らはすぐバテます。なんで?ていうぐらい。逆にみんな「なんで葛西さんそんなに体力あるんですか?」と。自分でも不思議に思い、僕の体を解剖してもらいたいです。どんな体になっているのか。腰を痛めたり、膝を痛めたり、鎖骨も2回折りましたが、致命的なケガじゃないのでラッキーだと思っています。

ただ、本当、紙一重だと思います。ちょっと風にあおられたりすると、死んでもおかしくないぐらいの危ない競技なので、不安になることもありますし、恐怖心との闘いです。紙一重の闘いでもありますが、致命的なケガはなかったので。これからどうなるかはわからないですけど、その中でシビアに戦えるということは、自分でもビックリするぐらいすごいなと思っています。


あきらめようと思ったことはありますか?「もうダメだ」みたいな。


スキージャンプは波がすごくあるスポーツで、その年が良くても次の年ダメだっていう選手を何人も見ているし、僕も経験しています。波を減らすためには、どうしたらいいのかなって、ずっと考えてやっています。どん底にはまってしまうと、どん底が続く選手、上がってくる選手がいます。23年どん底続くと、会社から「はい、もう終わり」と言う通告を受けた選手を何人も見てきました。

厳しい中でトップをずっと維持できる反応、判断能力が自分にあります。オリンピックでダメだったとしても、これだけ自分がやってきて、能力はある、努力もしている、ということがあきらめないっていう気持ちがつながっていると思います。


ご自身が「もう歳だしな……」なんていうことは全然思わないわけですね。


全くないですね。今、30歳ぐらいの選手と(気力や体力が)同じぐらいじゃないのかなと思います。20歳前後の選手には負けません。僕が40歳のとき、海外のメディアに「何歳まで続けるのですか?」と質問され、自信を持って「あと10年やります。50歳までやります」という言葉が自然と出ました。今から10年だと、(2026年に招致している)札幌オリンピックが来るか来ないかの年なので頑張っちゃうよ!


スキージャンプに限らず、目標にしている人、尊敬している人はいますか?


バスケットのマイケル・ジョーダンとゴルフのタイガー・ウッズは、すごいと思います。彼らのような素晴らしいヒーローになりたいと思っていました。山本昌(プロ野球)さんは引退しましたけど、目標にしていました。サッカーのキング・カズさんを見ていると、僕もまだまだ頑張っていかなきゃなって思います。競技は違いますが、互いに刺激し合える人がいるので、それを目標に頑張るっていう気持ちになりますね。


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スキージャンプの魅力はなんですか?


僕はいろいろなスポーツ好きでやってきましたが、スキージャンプが一番難しいと思います。これを極めることはできないですね。極めたいっていう気持ちはありますが。スキージャンプは、一般の人にできない競技。一般の人が、野球をやりたいとか、テニスをやりたいとか、何とかできるじゃないですか。スキージャンプだけは、小さい頃からやっていないとできない競技。空を舞って、あの快感というのは飛んでいる選手しか味わえないですよね。


極めることができない難しさがあるからこそ、愛してやまないのですね。


メインが4年に1度のオリンピック。4年に1度にたった2本しかなくて、90キロ前後のスピードの中で、タイミングを合わせる。零コンマ何秒ですよ。それをピッタリ合わせても、屋外競技なので運不運もあります。きょうもそうですけど、向かい風に当たれば飛んでいく。当たらなければ失速する。たった2本の中で、そんな濃い、難しい競技なので、92年のオリンピック(アルベールビル)から出場しましたが、風に当たらなかった。

2年後のリレハンメルでも、ベストパフォーマンスを出せなかった。妹のために頑張ったけどダメだった。長野オリンピックでは母親のために頑張ったけど、選手に選ばれなかった。そういう悔しい思いがいろいろありましたが、6大会連続出場となった2010年のバンクーバーオリンピックも、風に恵まれなかった。4年に1度、2回とも良い風にあたることなんて……。やっぱり理不尽な競技だなと。いつもムカつくんですよ。「何、この競技」みたいな。

完ぺきなジャンプをしても、風が味方しなければダメです。それをずっと我慢してきて、やっと7回目に良い条件がきて。メンタル面を含めて、たった2本の難しいタイミングを合わせられたのが、ソチオリンピックでした。本当にジャンプ競技の難しさっていうのを今でも感じていますね。


今後のビジョンと具体的な目標をお聞かせください。


今後、まだ10年はジャンプをやります。でも、若手を育てたいっていうのもあります。取りあえず、チームに可愛い後輩たちがいるので、彼らをめちゃ早く強くして、世界のトップで戦わせたい、そういう気持ちがあります。でも、自分がジャンプのために生まれてきた人間だと思っているので、いけるところまで活躍したいなと思っています。


読者の中には、何らかの形で世界一になりたいって思っている子供たちもいます。そういう子供たちに向けて、エールを送ってくれますか?


あきらめずに努力をすれば夢はかないます。自分はスキージャンプにめぐり合って、これしかないと、運命だと思いました。野球やサッカーをやる子供が多いですが、その子に合っていないかもしれないし、合っているかもしれない。僕は結構、運命を信じて生きています。風がくるのも、なくなるのも運命だし、オリンピックでメダルを取るのも、そういう運命だと思っています。運命に従い、努力は欠かさずに、夢をあきらめないことが大切です。


生まれたお子さん(2016130日に誕生した第1子の女児)にジャンプをやらせたいですか?


やらせないです。それもまた、その子が運命に従って、テニスなのかゴルフなのか、わからないですけど。スポーツはやらせたいと思います。人々に与えられる勇気とか感動は、スポーツを通じて僕は強く感じていたので、何かスポーツをやらせて感動させてくれれば、と思っています。


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  • 記録名:
  • Most individual starts in FIS Ski Jumping World Cup competitions
    Most winter Olympic appearances by an athlete
  • 記録:488回 / 7回
  • 記録のタイプ:スキージャンプの記録, スポーツの記録
  • 記録保持者:Noriaki Kasai(日本) 

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